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消化管外科

食道・胃・小腸・大腸・肛門に発生する様々な疾患を対象に診断、治療を行っています。診断から治療までを消化器内科、画像診断科と連携を取りながら行い、すべての症例を合同カンファレンスで検討して、診断精度の向上に努めています。治療に際しては常に最新の情報をもとに、患者さんの状態や病気の進行度に応じた最良の治療法を提供できるように努力しています。特に悪性腫瘍(癌)に対しては、手術のみならず、化学療法や放射線治療を取り入れた集学的治療による治療成績の向上を目指しています。また多の治験や臨床試験に参加し、将来の治療成績の向上や、新しいガイドラインのエビデンス構築に貢献できるように努めています。

食道癌Esophageal Cancer

食道癌に対する治療法としては、内視鏡的治療、外科的切除、放射線療法、化学療法、化学放射線療法(CRT)があり、これらを組み合わせた集学的治療を行うことが重要です。私達は、患者様の全身状態と癌の進行度(病期、ステージ)を総合的に評価し、患者様一人一人にとって最適と思われる治療法を選択するようにしています。当科における食道癌切除症例数は、2005年以降年々増加しています(図1)。2011年からは胸部、腹部操作を完全鏡視下で行うminimally invasive esophagectomyを導入しています。より小さい創で食道切除を行うことができるため、患者様の痛みや体に対する侵襲を軽減することができます(図2)。2014年は完全鏡視下手術が全症例の39%に達しています。また開胸手術は胸腔鏡補助下に行い、ほぼ全例10cm以下の皮膚切開で手術を行っています。

  • 図1.食道癌切除症例数の年次推移
    図1.食道癌切除症例数の年次推移
  • 図2.腹腔鏡下手術の腹部創(左)と胸腔鏡下手術の胸部創(右)
    図2.腹腔鏡下手術の腹部創(左)と胸腔鏡下手術の胸部創(右)

食道癌に対する根治術は侵襲の大きな手術であり、術後合併症が問題となります。とくに近年、心疾患、肺疾患、糖尿病などの併存症を有する高齢の症例が増加しており、当科でも2014年の食道癌手術に占める70歳以上の症例の割合は25%を越えています。そこで様々な工夫を行い、安全性の向上に努めています。胸腔鏡下手術は呼吸器合併症を減少させる可能性が報告されており、当科でも少しずつ適応を拡大してきています。また、拡大視効果により腹腔内および胸腔内の深部をより詳細に観察することが可能で、リンパ節郭清の精度も向上してきています。その他の手術手技に関しても、年々改良を加えています。現在、頚部食道胃管吻合として行っている三角吻合に大網被覆を行う方法は、縫合不全、吻合部狭窄ともに他の吻合法より有意に少ないことが明らかとなり、当科の標準術式となっています。

 

当科はJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)食道がんグループの参加施設であり、食道癌に対する標準治療の確立と進歩を目的として様々な研究活動(多施設共同臨床試験)を行っています。過去の臨床試験(JCOG9907)の結果から、切除可能なリンパ節転移陽性食道癌に対しては、化学療法を行ってから手術を施行することが標準治療をなっています。しかしながら、標準的化学療法であるシスプラチン+5-FU(FP)療法は奏効率が低いことが問題と考えられます。現在は、標準治療である術前FP療法に対して、より強力な術前治療(シスプラチン+5-FU+ドセタキセル;DCF療法)、あるいは術前化学放射線療法(FP療法+放射線療法)の効果が優れているかどうかを検証する試験(JCOG1109, NExT試験)が実施されており、当科からも症例登録を行っています。また、遠隔転移をもつ進行再発食道癌に対して、FP療法と、それにさらにドセタキセルを併用したDCF療法の生存期間を比較する試験(JCOG1314, MIRACLE試験)も行っています。

 

早期食道癌に対しては、機能温存の観点から内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が注目されています(図3)。内視鏡治療は消化器内科にて施行していただいておりますが、その適応の判断は合同カンファレンスを通じて行われ、外科と内科、画像診断科が密に連携しながら治療にあたっています。その症例数は増加傾向にあり、2014年には33例の食道癌に対してESDが施行されました。 近年では、根治的CRT後の遺残・再発表在病変に対するsalvage ESDも積極的に行っています。Salvage ESDは瘢痕による変化の影響などで手技的には熟練が必要とされますが、適応症例の判断及びESDの手技を慎重に行えば、低侵襲かつ安全に治療ができることから、根治的CRT後の遺残・再発表在病変に対して非常に有用な治療法であると考えています。

図3.食道癌に対する内視鏡的粘膜下層切除(ESD)
図3.食道癌に対する内視鏡的粘膜下層切除(ESD)

局所的な高度進行癌や手術不能症例に対しては化学放射線療法が有用です(図4)。当科でも年々このような高度進行症例が増加しており、2014年には40例の患者に化学放射線療法を施行しています。これまでに高度進行症例に対して、DCF療法を併用して行った化学放射線療法の短期成績は、初回効果判定時の完全寛解率が41%となっています。また手術後に病理学的な治癒が確認できたものが18%となっており、かつては長期生存が望めなかった進行症例に対しても、化学放射線療法は有望な治療の選択肢の一つとなっています。また、嚥下障害を伴った切除不能食道癌に対しては、経口摂取とQOL改善を目的としてステント治療(図5),バイパス手術など の姑息的治療も行っております。

  • 治療前 治療後
    図4.進行食道癌に対する化学放射線治療
  • 図5.狭窄を伴う食道癌に対するステント留置
    図5.狭窄を伴う食道癌に対するステント留置

最後に当科での食道癌の治療成績(5年生存率)を示します(図6)。今後も手術、化学療法、放射線治療の集学的治療を行い、治療成績の向上に努めていきたいと考えています。

図6.食道癌症例のStage別生存率
図6.食道癌症例のStage別生存率

胃癌Stomach Cancer

我が国の胃癌は早期診断と治療の進歩により、その死亡率は近年、低下傾向にあります。しかし、いまだその罹患率は高く、罹患数も増加しています。当科では2014年5月に改訂された‘胃癌治療ガイドライン’に基づき、各患者様の状態や癌の進行度に応じた‘個別化治療’を心掛けて診療を行っています。

 

早期胃癌の割合は近年、増加し、リンパ節転移の可能性が極めて低い早期胃癌(2cm以下の肉眼的粘膜内癌と診断される分化型癌)に対しては、内視鏡的切除(EMR、ESD)を行っています。一方、内視鏡治療適応外の早期胃癌に対しては、腹腔鏡下手術を積極的に行っています。胃癌の術式には、胃全摘、幽門側胃切除などの定型手術だけではなく、縮小手術として噴門側胃切除がありますが、そのすべてに腹腔鏡下手術を積極的に行っています(図1)。腹腔鏡よる拡大視効果を生かした機能温存とリンパ節郭清の徹底化を図ることにより、低侵襲性と根治性の両立を目指しています。

図1.完全腹腔鏡下胃全摘術
図1.完全腹腔鏡下胃全摘術

一方、広範なリンパ節転移を伴う症例、他臓器転移を伴う症例、腹膜播種を伴う症例の予後は未だ不良です。とくに腹膜播種は胃癌の転移・再発形式で最も多くみられ、胃癌による死亡の20-40%は腹膜播種にみられます。腹膜播種の有無は予後を規定し、その診断は治療方針の決定に重要です。しかしながら、術前の画像検査では、粗大な腹膜結節や腹水がない限り診断困難であり、根治目的で開腹して初めて播種が分かることも稀ではありません。当科では単孔式腹腔鏡手術の手技を用いて約2㎝の臍部のひとつの創から審査腹腔鏡を行っています(図2)。この手技により、画像診断では得られなかった正確な腹膜播種の存在とその組織学的診断を得ることができます。不必要な開腹を避けることで、侵襲を軽減し、早期の化学療法への移行が可能となります。

図2.進行胃癌に対する単孔式審査腹腔鏡
図2.進行胃癌に対する単孔式審査腹腔鏡

他臓器への遠隔転移を有するステージIV胃癌に対する治療は全身化学療法が中心となります。新規抗癌剤の進歩により切除不能進行・再発胃癌の治療成績は徐々に改善しています。2011年からは分子標的治療薬であるトラスツズマブの保険適応が承認され、HER2陽性胃癌に対する治療の選択肢が増えました。また、新規抗癌剤、分子標的治療薬と手術の組み合わせにより、今までは治癒切除が困難とされてきた進行胃癌に対しても積極的に治療が行えるようになってきています。初診時に腹膜播種や洗浄細胞診陽性胃癌と診断された症例でも、化学療法や分子標的治療薬により播種や腹腔内遊離癌細胞が消失し、根治切除が可能となった症例をこれまでに7例経験しています(conversion therapy: 図3)。今後、化学療法や分子標的治療のさらなる進歩に伴い、高度進行胃癌に対する術前化学療法による治療成績の向上や、切除不能進行胃癌症例に根治が望めるようになることが期待されます。当科では多数の治験・臨床試験に参加することにより、進行・再発胃癌の治療成績のさらなる向上を目指しています。

化学療法前 化学療法後
図3.化学療法により根治切除が可能となった腹膜播種を伴うHER2陽性胃癌

最後に当科での胃癌の治療成績(5年生存率)を示します(図4)。大学病院にご紹介いただく患者様の多くはご高齢の方や、高度進行癌、合併症を有するハイリスクの方が多いですが、各診療科と協力しながら術前・術中、術後の管理を行うことにより、安全に手術を受けていただけるよう心がけています。

図4.胃癌症例のStage別生存率(2005年~2014年)
図4.胃癌症例のStage別生存率(2005年~2014年)

大腸癌Colorectal Cancer

現在、日本における大腸癌の罹患者数は11万9000人(2010年)に達し、死亡者数は47600人(2013年)に増加してきています。臓器別でみた死亡率では大腸癌は死因の男性3位、女性1位となっており、大腸癌への治療に対する期待は年々大きなものになってきており、当科における手術症例数も年々増加傾向にあります(図1)。このような状況のなかで、我々は特にMultidisciplinary team(集学的治療のためのチーム医療)を推進してきており、外科医だけでなく、消化器内科医、放射線科医やコメディカルも含めた治療方針検討の場面が増加してきています。

大腸グループの手術症例数の推移 原発性大腸癌の切除症例数
図1.大腸グループの手術症例数の推移

大腸早期癌に対しては消化器内科と共に、内視鏡的摘除(ESD)か外科的切除かの検討を行っています(図2)。内視鏡的摘除後に追加腸切除が必要な場合は当科にて切除を行っています。

図2.大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術
図2.大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術

手術療法に関しては、他臓器浸潤例やbulkyなリンパ節転移症例を除き、腹腔鏡下手術を積極的に施行しています。導入後は術式の改良と定型化を繰り返し、安定した手術成績が得られるようになってきました。腹腔鏡手術に関して、最近その安全性が問題とされる場合も多く見受けられます。当科の開腹移行率は2.2%と低く、手術関連死亡率は0.26%と抑えられており、鏡視下手術の導入に関しては問題がないと判断しています。当科は大学病院の特性上、もともと併存症をお持ちの患者様が多いのですが、術後合併症は長期予後にも影響を及ぼすという考えのもと、合併症を起こさないように細心の注意を払って診療 を行っています。直腸癌に関しては、最近開腹手術と腹腔鏡手術で長期予後に差がないとのランダム化比較試験の報告が出てきていますが、中下部直腸癌に対しても適応を慎重に腹腔鏡手術を導入しています。鏡視下手術の利点である拡大視効果により、せまい骨盤腔でも詳細な解剖の把握が可能で、癌の根治性を損なわずに自律神経の温存を心がけ、性機能・排尿障害の低下に努めています。予防的側方郭清に関しては、ガイドラインに沿う形で行っております。近年は、遺伝性疾患であるリンチ症候群や家族性大腸腺腫症、あるいは炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎などで大腸全摘術を要する症例が増加しております。このような症例に対しても、積極的に鏡視下手術を導入しております(図3)。また、局所進行直腸癌に対してはMultidisciplinary therapyを推進し、多職種の協力を得ながら補助療法を行っています。補助療法としては術前化学放射線療法並びに術前化学療法を臨床試験として施行しており、臨床的な有用性を得ております。局所再発例ではR0切除可能かの判断を慎重に行い、骨盤内臓全摘術を始めとした拡大手術にて生存期間の延長を試みています。

図3.直腸癌を伴う家族性大腸ポリポーシスに対する大腸全摘術
図3.直腸癌を伴う家族性大腸ポリポーシスに対する大腸全摘術

切除不能大腸癌に対しては、多くの治験・臨床試験に参加しており、1次治療から標準治療を終えた症例に関しても最先端の治療を提供しています。当科での大腸癌の治療成績を示します(図4)。最近は新たなサルベージラインの治療法も出現したことで、患者さんの治療期間も長期化しており、緩和医療がますます重要になってきています。また、そのようなステージの患者さんは骨転移や脳転移を来たされる方も少なくないため、より幅広い知識と経験が必要になってきています。以前から行っている外来化学療法室でのカンファレンスはがん専門看護師/薬剤師はもとより、緩和ケア医、医療連携コーディネーターなどの多職種が集まり、より密度の濃いディスカッションが行えています。QOLを維持した生活を送りながら、できるだけ予後の望める治療を目指し治療を行っています。

図4.大腸癌の治療成績:5年生存率
図4.大腸癌の治療成績:5年生存率
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