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患者様へ

消化管外科

 食道・胃・小腸・大腸・肛門に発生する様々な疾患を対象に治療を行っています。診断から治療までを消化器内科、画像診断科と連携を取りながら行い、全ての症例を合同カンファレンスで検討して、診断精度の向上に努めています。治療に際しては常に最新の情報をもとに、患者さんの状態や病気の進行度に応じた最良の治療法を提供できるように努力しています。特に悪性腫瘍に対しては、手術のみならず、化学療法や放射線治療を取り入れた集学的治療による治療成績の向上を目指しています。また多くの治験や臨床試験に参加し、将来の治療成績の向上や、新しいガイドラインのエビデンス構築に貢献できるように努めています。

食道癌

 食道癌に対する治療法には、内視鏡治療、手術、化学療法、放射線療法、免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤)があり、これらを組み合わせた集学的治療によって、治癒や延命を目指した治療を行います。私達は、患者様の併存症や生活強度などの全身状態と癌の進行度を総合的に評価し、一人一人にとって最適と思われる治療法を選択するようにしています。
 当科における食道癌切除症例数を図1に示します。当科では、2011年から胸部、腹部操作を完全内視鏡下で行うminimally invasive esophagectomy(MIE)を導入しました。それ以降、従来の開胸手術は年々減少しMIEの割合が増えています。2020年度は食道切除術の94%がMIEでした。MIEは小さい創で食道切除を行うことができるため、痛みの軽減や美容的な面で有用です。また、拡大視効果により肉眼では見えなかった細かい神経や血管を確認できるため、より繊細で質が高く出血の少ない手術が可能になっています(図2)。現在では、術前に化学療法や化学放射線療法(CRT)を行った症例にもMIEの適応を広げています。さらに、食道癌大動脈瘻に対して大動脈ステントを留置した後の食道亜全摘や右肺癌との同時切除など難易度の高いMIEにも積極的にも取り組んでいます(図3)。2018年4月から食道癌に対するロボット支援手術、縦隔鏡下の非開胸食道切除手術が保険適応となりましたが、当科でも今年中にロボット手術を導入する準備を進めています。
 食道癌の治療方針は外科、内科、放射線科によるカンファレンスを通じて決定しています。毎週、治療の適応、手術前後の症例の見直しを合同で行い、様々な角度から診療内容を検討します。早期食道癌に対しては、機能温存の観点から内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行います(図4)。治療には主に消化器内科に施行していただいていますが、適応の判断は合同カンファレンスを通じて行われ、治療後の病理結果によっては、追加治療として手術やCRTを行います。近年では、根治的CRT後の遺残・再発表在病変に対するESD(サルベージESD)も積極的に行っています。

  • 図1.食道癌切除症例数の年次推移
    図1:食道癌切除症例数の年次推移
  • 図2:胸腔鏡・腹腔鏡下食道切除
    図2:胸腔鏡・腹腔鏡下食道切除

 局所的な高度進行癌や併存症などで手術が困難な患者様に対しては、根治を目的としたCRTを行っています。2020年度には26例の患者にCRTを行いました。他臓器浸潤を認める進行癌であっても、CRTのみで根治に至る症例28%認めました。また、根治的CRT後に癌が遺残した症例に対するサルベージ手術(救済手術)など侵襲の大きな手術も積極的に行っています。これまで当科では60例のサルベージ手術を行ってまいりましたが、在院死亡例は認めていません。さらに、CRT後にも腫瘍が気管に浸潤していて合併切除が必要な症例に対しては、耳鼻科・心臓血管外科と合同で、咽・喉頭食道摘出術・縦隔気管孔造設術(いわゆるGrillo手術)なども行っています(図5)。かつては長期生存が望めなかった進行症例に対しても、CRTは有望な治療の選択肢となっています。
 当科はJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)、九州消化器癌化学療法研究会(KSCC)など臨床試験グループの参加施設であり、食道癌に対する標準治療の確立と進歩を目的として様々な他施設共同臨床試験を行っています。また、さらなる食道癌治療成績の向上を目指して、治験にも積極的に参加しています。当科からも症例登録を行ったATTRACTION-3試験の結果をうけて、昨年2月から根治切除不能な進行・再発食道癌に対して免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブ(抗PD-1抗体)を保険診療として使用できるようになりました。これまでに27例の食道扁平上皮癌の患者様にニボルマブの投与を行いましたが、奏効率17%、病勢制御率46%という治療成績が得られています。現在は、免疫チェックポイント阻害剤とCRTの併用療法の治験が実施されており、積極的に症例を登録しています。

  • 図3:食道癌に対する高難易度MIE
    図3:食道癌に対する高難易度MIE
  • 図4:早期食道癌に対するESD
    図4:早期食道癌に対するESD
図5:咽・喉頭食道摘出術・縦隔気管孔造設術(いわゆるGrillo手術)
図5:咽・喉頭食道摘出術・縦隔気管孔造設術
(いわゆるGrillo手術)

 当科には、癌だけでなく多くの食道良性疾患の患者様もご紹介いただいています。食道裂孔ヘルニア、食道アカラシアに対しては腹腔鏡で手術を行っており、患者満足度の高い治療成績が得られています。また、咽頭食道憩室(Zenker憩室)や、薬剤の誤飲による腐食性食道炎など比較的稀な食道疾患に対しても、安全に手術を行っています(図6)。
 最後に当科の食道癌の治療成績(5年生存率)を示します(図7)。今後も治療成績の向上に努めていきたいと考えています。

  • 図6.良性食道疾患に対する手術
    図6.良性食道疾患に対する手術
  • 図7:食道癌手術症例の治療成績
    図7:食道癌手術症例の治療成績

胃癌・GIST

 胃癌は減少傾向にあるといわれていますが、本邦において罹患率が第2位、死亡率が第3位と現在も頻度が高い悪性疾患です。胃癌の診断と治療は日進月歩で進歩し、今年は『胃癌治療ガイドライン第6版』が発刊予定です。当科ではガイドラインに基づき、更に患者様の状態や癌の進行度に応じた「テーラーメイド医療」を目指した診療を行っています。
 検診やスクリーニングの普及により早期で発見される胃癌が増えてきています。リンパ節転移の可能性が極めて低い早期胃癌に対しては、消化器内科と連携し内視鏡的切除(EMR、ESD)を行っています。
 手術に関しては、腹腔鏡下胃切除の適応を深達度が漿膜浸潤まででリンパ節転移が軽度な症例まで拡大し、低侵襲性と根治性の両立を担保した治療を心がけています。

図1:ロボット支援下幽門側胃切除
図1:ロボット支援下幽門側胃切除

 2018年4月より胃癌に対する胃全摘、噴門側胃切除、幽門側胃切除の3術式に対して、手術支援ロボット“da Vinci”を用いたロボット手術が保険収載されました。“da Vinci”の特性である高解像度3D画像、多関節機能、手振れ防止機能を用いて、従来の腹腔鏡手術よりも精密で安全性が高い手術が可能となります。当科でもロボット手術を導入し、良好な手術成績を収めています(図1)。
 高度進行胃癌やステージIV胃癌に対しては化学療法と手術を組み合わせた集学的治療を積極的に行っています。治験や臨床試験に登録することで、一般診療では使用できない最新の抗癌剤も使用可能です。近年、新規抗癌剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤の開発により、その奏効率も上がりこれまでは手術困難であったような症例も集学的治療により根治できた症例を経験するようになってきました。ステージIV胃癌に対するConversionsurgeryでは平均生存期間が36ヵ月と良好な治療成績を得ています(図2、3)。

図2:Conversion surgery
図2:Conversion surgery
  • 図3:Conversion症例の治療成績
    図3:Conversion症例の治療成績
  • 図4胃癌の治療成績(2005年~ 2019年)
    図4:胃癌の治療成績(2005年~ 2019年)

 当科での胃癌の治療成績(5年生存率)を示します(図4)。大学病院にご紹介いただく患者様は、ご高齢、高度進行癌、重篤な合併症を有するなど、年々ハイリスクの方が増えてきています。各診療科と協力しながら術前、術中、術後の管理を行い、安全な手術を受けていただけるように心がけています。
 大学病院では希少胃癌も集まってくるため非常に珍しい症例も経験します。
 胃底腺領域にできるポリープは癌化しないとされてきましたが、GAPPS(gastric adenocarcinoma andproximal polyposis of the stomach)は胃ポリポーシスから発生する遺伝性の胃癌です。世界的にも報告例は少ない胃癌ですが、当科ではこれまで3家系の手術を行いました(図5)。
 当科では希少疾患とされている消化管間質性腫瘍(GIST)や肉腫に関しても多くの症例を経験しています。切除症例では胃の欠損が少ないLECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)を行い(図6)、また、再発あるいは遠隔転移を有するGISTに対しては分子標的治療薬を用いた化学療法を行っています。

  • 図5:GAPPS
    図5:GAPPS
    (gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach)
  • 図6:胃GISTに対する腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)
    図6:胃GISTに対する腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)

大腸癌

【はじめに】
 大腸癌は日本の最新がん統計において、がん部位別罹患者数1位(15.3万人)、部位別死亡数2位(5.1万人)と、がん診療の中で大きな比重を占め続けています。我々はこれまでと同様、外科治療を中心とした集学的治療によって、大腸癌克服へ向け、治療に貢献したいと思っています。この集学的治療の充実のために、他診療科・他職種との細かな連携を取りながら、大腸癌治療成績の向上を目指しています。当科での大腸癌切除症例の治療成績を示します(図l)。

図1:大腸癌の治療成績
図1:大腸癌の治療成績

【様々な低侵襲手術】
 当科では、親の進行度に応じ、根治度を損なわない適切な症例において、腹腔鏡下・ロボット支援下手術などの低侵襲手術を行っています。腹腔鏡下手術では、術後痛みの軽減、術後回復期間短縮、および創傷感染・ヘルニアなどの術後合併症の発生率の低下が期待されます。また、拡大視効果による正しい剥離層の理解のもと、より質の高い癌手術が可能になります。我々のチームでは、2名の内視鏡外科技術認定医が在籍し、術者あるいは指導的助手として安全性の確保に努め、次世代を担う優秀な外科医の育成と、チームカの強化に取り組んでいます。
 進行癌による閉塞性大腸癌に対しては、消化器内科の協力のもと、大腸ステント留置の治療が確立しました。これにより緊急性の高い症例でも対応が可能となり、十分な減圧が得られてから大腸切除と一期的な再建を行うBridge to Surgeryを行っています。大腸癌以外の疾患としては潰瘍性大腸炎(UC)や家族性大腸腺腫症(FAP)に対する大腸全摘術や複雑な憩室炎に関しても腹腔鏡手術を積極的に行っています(図2)。
 ロボット支援下直腸手術に関しては、施行症例は60例を超え、現在までに大きな問題なく順調に施行できています。通常の腹腔鏡下直腸手術と比較して、狭骨盤の男性や肥満症例、肛門近傍の症例では特に有用性を発揮できると実感しています(図3)。また、術後の排尿機能障害が減少しており、骨盤内の神経温存に関して治療成績の向上が認められています。
 今後は手術時間の短縮、次のコンソール外科医の育成を目指し、安全第一で手術を行っていきます。

【合併症軽減に対する取り組み】
 大学病院は重度な併存症をもつ高齢者や、より複雑な病状の方を多く紹介いただきます。
このような方々対しても、合併症のリスクを可能な限りなくすため、術前に準備を怠ることなく、安全な手術が可能となるよう努力しています。術後合併症、特に縫合不全については、長期予後を悪くすることが知られています。ICGを用いた蛍光血流測定をはじめとしたさまざまな取り組みにより、発生率は徐々に低下しています(2020年度:1.9%)。
 このような取り組みには他診療科や栄養科、リハビリテーション科、関連病院との協力が不可欠であり、連携を密に取りながら手術後の経過がスムーズにいくよう努力しています。

【ミスマッチ修復遺伝子 ユニバーサルスクリーニングの開始】
 2020年10月よりすべての大腸癌切除症例に対し、ミスマッチ修復蛋白の免疫染色によるユニバーサルスクリーニングを開始いたしました。これにより、遺伝性大腸がんであるリンチ症候群の方々を同定しやすくなり、疑いの方には遺伝子検査とカウンセリングも提供しています。

【局所進行がんに対する手術】
 他臓器浸潤を伴う局所進行大腸癌や、直腸癌術後の骨盤内再発、骨盤内巨大腫瘍などに対する拡大手術にも取り組んでいます。特に、他臓器浸潤が疑われるような進行癌に対しては、術前補助化学療法を行い、癌の遺残がないR0切除が可能かどうかを慎重に判断したうえで、他臓器合併切除を伴う拡大手術(骨盤内臓全摘術、仙骨合併切除など)を行っています。
 直腸癌局所再発に関しては、適応を十分検討したうえで、腹腔鏡下手術も行っています(図4)。

【腹部救急外科】
 2020年度より腹部救急認定医がチームに加わり、これまで行っていた絞拒性腸閉塞、下部消化管穿孔、急性腸間膜虚血症等の重篤疾患に対する診療に加え、Openabdominal management等の専門的な知識・経験を要する腹部救急疾患まで幅広く行っております。

【切除不能大腸癌に対する集学的治療・個別化医療】
 我々は切除不能な状態であっても、集学的治療を行うことで根治に至る可能性を追求しています。切除不能な病変が全身化学療法によって、切除可能となりうるケースも多く経験しており、スムーズに外科治療に移行できるよう治療計画を行っています。
 肝転移症例はもとより肝外転移を有する場合でもチャンスがあれば外科的に根治切除を狙っていきます。当科の経験でも、化学療法後に外科的治療を行えた症例は予後が大幅に改善することがわかっています。それ以外の方々に対しても、最大限に治療効果が発揮できるレジメンで、副作用への対応にも十分配慮し、長期に渡り治療が継続できるよう心がけています(図5)。近年、ゲノム解析の進歩によって、切除不能・進行再発大腸癌の治療が劇的に変化しています。特定のドライバー遺伝子を標的とした治療薬の登場は、臓器別標準治療という概念から、臓器横断的な治療へ移行を始めています。頻度の少ない遺伝子異常に対しても、全臓器の方々が対象となるため、治療効果の高い薬剤が登場しやすくなり、個別化医療が発展していくものと考えられます。

【さいごに】
 当科ではがん制御のために、標準的治療と個々の症例に対する個別化治療のバランスを常に考えながら包括的な診療を行うことを目指しています。大腸癌治療成績改善のため、高度なレベルの診療に取り組みます。

  • 図2:潰瘍性大腸炎に対する腹腔鏡下大腸全摘術+回腸嚢肛門吻合
    図2:潰瘍性大腸炎に対する
    腹腔鏡下大腸全摘術+回腸嚢肛門吻合
  • 図3:ロボット支援下直腸切除術
    図3:ロボット支援下直腸切除術
  • 図4:直腸癌局所再発に対する腹腔鏡下切除術
    図4:直腸癌局所再発に対する腹腔鏡下切除術
  • 図5:免疫チェックポイント阻害剤著効例
    図5:免疫チェックポイント阻害剤著効例
©2018 kumamoto-gesurg