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肝胆膵外科

 肝臓・胆道・膵臓・牌臓の様々な疾患を対象に治療を行っています。消化器内科、画像診断・治療科、移植外科と毎週カンファレンスを行い、患者さんそれぞれのニーズに応じた最適な治療を提供できるように努めています。加えて癌の進行度や臓器機能および全身状態に応じて、腹腔鏡手術、焼灼療法、IVRによる治療などの低侵襲治療を積極的に導入しています。
 2020年に施行した日本肝胆膵外科学会の高難度手術は合計117例と、コンスタントに年間100例を越えています(図l)。2020年の肝切除数は131例(腹腔鏡手術78例)、膵切除数は66例(腹腔鏡手術40例)と、肝胆膵いずれの領域でも多くの手術を行っています。

図1:肝胆膵外科高難度手術
図1:肝胆膵外科高難度手術

肝細胞癌

 肝機能や癌の進行度を考慮して、肝切除、ラジオ波凝固療法(RFA)、肝動脈塞栓療法(TACE)、分子標的治療、放射線治療、肝移植などを組み合わせた『個別化治療』を行っています。他科との連携を密にしながら、熊本大学として統一した治療体系を確立しています。一方で、肝切除後予後向上のために、免疫チェックポイントインヒビターなどを用いた術後補助化学療法の治験を実施しています。
 肝細胞癌を含む最近10年間の年間肝切除数の推移を図2に示します。最近10年間の肝切除総数は1198例にのぼり、当科はコンスタントに年間100例以上の肝切除を行っている国内有数のhigh volume centerです。
 肝切除後合併症ゼロを目指して様々な取り組みを行っています。時に致命的になる術後肝不全を予防するために、CTによる残肝容量の算定だけでなく、アシアロSPECT/CT fusion画像を用いた「機能的」残肝容量の算出を行い、より正確な残肝評価を行っています(Surgery2015)。更にVINCENT™ systemにアシアロSPECT-CTfusion画像を融合させたアシアロSPECT-fusionVINCENT™ を用いた『機能的残肝容量に基づいた術前手術手技シミュレーション』を導入して精緻な手術を実現しています(図3)。

  • 図2:過去10年間の肝切除数の年次推移 (n=1151)
    図2:過去10年間の肝切除数の年次推移(n=1151)
  • 図3:機能的肝体積に基づいた術前手術手技シミュレーション
    図3:機能的肝体積に基づいた術前手術手技シミュレーション

 2000年から2019年までに当科で切除を行った初発肝細胞癌(n=1006)の切除後予後は、5年生存率72.8%と極めて良好です(図4)。また初発肝細胞癌に対する肝切除のstage別5年生存率も、stageIで83.4%、stageIIで83.4%、stageIIIで61.0%、stageIVAで43.5%と、stageIIIやstageIVAの進行癌でも比較的良好な予後を実現しています(図5)。このような良好な治療成績は、再発肝細胞癌に対しても、肝機能が良好であれば、難易度が高いとされる再肝切除を積極的に行い(LiverTransplant 2015)、再発時の癌の進行度や残肝機能に応じて、RFA、TACE、分子標的治療などを組み合わせた『個別化治療』への我々の取り組みの成果と考えています(HPB 2018)。
 体に優しい、創の小さな経皮的あるいは腹腔鏡手術を積極的に行っています(SurgEndosc 2019)。肝癌に対する腹腔鏡・胸腔鏡手術を全国に先駆けて1994年に導入し、現在ではICG蛍光法など術中ナビゲーションを駆使して安全性を担保しながら、区域切除や葉切除へ適応を拡大しています(図6)。現在では、肝切除の約6割(78例)を完全腹腔鏡下に行っています(図7)。

図4:初発肝細胞癌の切除後予後(n=1006)
図4:初発肝細胞癌の切除後予後(n=1006)
図5:初発肝細胞癌のStage別予後(n=1006)
図5:初発肝細胞癌のStage別予後(n=1006)
図6:腹腔鏡下左肝切除
図6:腹腔鏡下左肝切除
図7:完全腹腔鏡下肝切除の年次推移
図7:完全腹腔鏡下肝切除の年次推移

肝内胆管癌

 肝内胆管癌は希な原発性肝癌で、発見時既に進行している症例が多く、切除後予後が極めて不良な難治性癌です。2002年から2020年までに当科で切除を行った初発肝内胆管癌(n=104)の切除後予後は、5年生存率50.9%と比較的良好です(図8)。また初発肝内胆管癌に対する肝切除のstage別5年生存率は、stageVIIで58.7%、stageIIIで52.6%、stageIVAで36.8%であり(図9)、更なる予後向上のためには、リンパ節転移のあるStageIVAの進行例に対する術前補助化学療法などのエ夫が課題と考えています。また、肝内胆管癌再発例に対しても、適応を吟味しながら積極的に再切除を行って、良好な治療成績を収めています(AnnGastroenterol Surg 2017)。

図8:初発肝内胆管癌の切除後予後(n=104)
図8:初発肝内胆管癌の切除後予後(n=108)
図9:初発肝内胆管癌のStage別予後(n=104)
図9:初発肝内胆管癌のStage別予後(n=108)

転移性肝癌

 大腸癌肝転移の治療成績は、新規化学・分子標的治療の導入により急速に改善し、ガイドライン上も肝転移巣が切除可能であれば切除を行うことが推奨されています。我々は、肝切除不能な患者さんが抗癌剤治療により切除可能となれば、転移巣が10個以上など多数ある場合でも、様々な工夫をして、患者さんの予後改善のために、積極的に手術を行っています。転移巣が深部にある場合は、ラジオ波焼灼を切除に組み合わせて切除適応を拡大し(BrJ Surg 2017)、転移巣が両葉にまたがる場合、切除適応拡大のために『Two-Stagehepatectomy』を積極的に行っています(AnnSurg 2015)。1stStageで原発巣切除と残肝となる側にある腫瘍の部分切除を行い、切除予定肝葉の門脈塞栓を行います。約1ヶ月間残肝の肥大を待って、2ndStageで門脈塞栓を行った葉を切除します(図10)。

図10:大腸癌肝転移に対するTwo-Stage hepatectomy
図10:大腸癌肝転移に対するTwo-Stage hepatectomy

 腫瘍内科医、消化器内科医、消化管外科医と連絡を密にして、肝転移巣の切除適応やタイミングを決定しています。このような工夫により、2000年から2019年までに当科で根治切除を行った大腸癌肝転移症例(n=225)の切除後5年生存率は55.3%と良好です(図11)。また、大腸癌肝転移に対しても積極的に腹腔鏡下手術を行っています。

図11:大腸癌肝転移の切除後予後(n=217)
図11:大腸癌肝転移の切除後予後(n=225)

膵癌

 膵癌は極めて予後不良な難治性癌です。厚生労働省の統計では、2019年の部位別がん死亡数では男性第4位、女性第3位と年々増加しています。以前は手術のみが有効な治療でしたが、新しい化学療法の出現や診断技術や手術手技の向上で少しずつ治療の道が開けてきました。
 2004年から2020年までに当科で切除を行った膵癌(n=283)の切除後予後は、5年生存率29.5%とまだ満足できる成績ではありません(図12)。またstage別5年生存率は、stageIで66.3%、stageIIAで40.3%、stageIIBで17.5%、stageIII/IVで0%となっており、更なる予後改善のためには、stageIの早期に膵癌を診断すること、およびstageIIB/III/IVにおける術前化学療法の工夫が課題と考えています(図13)。

図12:膵癌の予後曲線(n=283)
図12:膵癌の予後曲線(n= 283)
図13:膵癌のStage別予後曲線(n=283)
図13:膵癌のStage別予後曲線(n=283)

 上腸間膜動脈や腹腔動脈など重要血管に浸潤がある局所進行癌の場合、また肝転移や腹膜播種などの遠隔転移を認める場合は、全身化学療法を行います。FOLFIRINOX療法(オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル、レボホリナートカルシウム)かGnP療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)を個々の症例に合わせて選択しています。近年では局所進行癌で切除不能と診断された患者さんが、このような化学療法で腫瘍が縮小し、根治切除(Conversionsurgery)可能となる症例も増えています(図14)。
 切除後予後の向上を目指して、膵癌に対しても積極的に術前化学療法を行っています。門脈浸潤を認めるなどのBorderlineresectable(切除可能境界)膵癌に対してはFOLFIRINOX療法やGnP療法による術前化学療法をほぼルーチンに行っています。一方でResectable(切除可能)膵癌に対しても、Prep-02/JSAP-05試験の結果から、GS(Gemcitabin+S-1)療法を2クール行った後に手術を行っています。

図14:膵癌に対するConversion Surgery
図14:膵癌に対するConversion Surgery

 膵癌に対する手術は高侵襲で、全国的にみると合併症率が高いことから、症例数の多い施設で手術を行うことがガイドラインでも推奨されています。当科の過去10年間の膵切除の年次推移を図15に示します。当科は国内有数の膵切除に関するhighvolume centerです。局所進行癌に対しては、門脈合併切除および自家グラフトによる門脈再建を行う拡大手術を行っています(図16)。膵切除においても腹腔鏡手術の適応拡大が進み、膵神経内分泌腫瘍(PNET)といった低悪性度腫瘍のみでなく、胆管癌や膵癌に対しても腹腔鏡下膵頭十二指腸切除(図17)や腹腔鏡下尾側膵切除を行っています(図18)。今後はロボット手術を導入する予定です。

図15:過去10年間の膵切除数の年次推移(n=517)
図15:過去10年間の膵切除数の年次推移(n=517)
図16:門脈合併切除PD(左腎静脈グラフト)
図16:門脈合併切除PD(左腎静脈グラフト)
図17:腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術
図17:腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術
図18:膵癌に対する腹腔鏡下尾側膵切除
図18:膵癌に対する腹腔鏡下尾側膵切除

胆道癌

 胆道癌は胆管癌、胆嚢癌、乳頭部癌に分類されます。特に肝門部胆管癌は肝胆膵領域の癌の中で最も診断と治療が難しい疾患ですが、MDCTによる画像診断、血管合併切除・再建を含む拡大手術、薬物治療の進歩により胆道癌の治療成績は向上しています。2000年から2019年までに当科で切除を行った胆道癌(n=200)の切除後予後は、5年生存率39.9%と比較的良好です(図19)。また、胆道癌切除後のStage別5年生存率はstageIで81.4%、stage IIで42.1%、stageIII/IVで15.5%であり(図20)、更なる予後向上のためには、周囲脈管浸潤を伴う局所進行例やリンパ節転移を伴う胆道癌に対する集学的治療体系の確立が喫緊の課題と考えています。

図19:初発胆道癌の切除後予後(n=200)
図19:初発胆道癌の切除後予後(n=200)
図20:初発胆道癌のStage別予後(n=200)
図20:初発胆道癌のStage別予後(n=200)

 当科では、切除体積率の高い肝切除が必要な症例には、ICG試験とアシアロシンチグラフィで肝予備能を評価し、機能的肝切除率を参考に機能的残肝ICGK値を算出して手術適応を決定しています。残肝機能が不十分と思われる症例に対しては、術前に切除予定肝の門脈塞栓を行っています。残肝機能が増大した後に、右肝切除や左3区域切除術を行います(図21)。また、広範囲胆管癌に対する肝膵同時切除も積極的に行っています。癌の浸潤範囲が更に広い切除不能症例や、肝転移など遠隔転移を伴う症例に対しては、ガイドラインで第一選択として推奨されているゲムシタビン+シスプラチン療法を中心に治療を行っています。

図21:肝門部胆管癌に対する門脈塞栓後の拡大肝切除術
図21:肝門部胆管癌に対する門脈塞栓後の拡大肝切除術
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